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和の美をまとう引き振袖『美麗』誕生秘話

椿山荘らしさを追求した新たな挑戦

New challenges of Chinzan-sou.

奇しくもホテル椿山荘は2013年にリニューアルオープンを控えていたので、絶好のタイミングだと私は思いました。ぜひお祝いに受け取っていただけないか。ご相談申し上げると、椿山荘スタッフの竹村菊直さま、松山元信さま、衣装室の株式会社TAKAMIBRIDAL・大籠雅志さまが大変親切に相談にのってくださいました。

竹村さんは、「とても素敵だと思うのですが、椿は首が落ちるようで縁起が悪いとおっしゃる方もいるので、結婚式の衣装に向くのか、それが正直気になります」と、とても直截にお話くださりました。私は、「なるほど、そんなこともあって、椿の意匠の着物が少ないのかもしれませんね」と答えましたが、むしろそれは最近のことではないのか。古来日本人は椿を愛してきたはずだし、山縣有朋がわざわざ「椿山荘」として庭園を造ったほどなのだから、本当に縁起が悪いなんてことはありえないのでは、と、合点がいきませんでした。シャネルだってカメリア=椿がモチーフです。美しい女性の象徴として、椿は西欧でも愛されているのに。

親しい呉服屋さん数人に相談しましたが、「お茶の世界以外では、椿は使いませんね。戦後は椿の下図の制作自体が行われていないでしょう」ということでした。でも、さらに外国で出版される日本文化の本や、戦前の織物の記録などを辿っていくと、実に多くの椿の意匠に巡り会うのです。ことに雪をかぶった椿の姿などが、戦前は随分好まれて描かれていたことを私は発見しました。 「やっぱり椿は、日本人に愛されてきたのだわ。縁起が悪いというのは、武士道が否定された戦後の価値観じゃないかしら。命を惜しまずに投げ出す精神性の象徴であることを恐れた人たちが、椿への日本人の愛を封じようとしたなんてことはないかしら。」 策意の有り無しは別にしても、椿が美しくて、日本人に愛されてきたことは間違いありません。花弁を散らさずにぽとんと落ちるさまは、命の間際まで美しく咲き続ける女性のようで、また、焦ることなく続く愛の象徴のようで、むしろ結婚式にふさわしいという新しい価値を椿に吹き込めないかしらと、私は考えました。

そのためにこそ、無駄になっても構わないから、ぜひとも椿の振袖を作らせていただけないか。レンタルするかどうかは、望みのお客様が出てきた時に考えていただければ十分。私は作るだけで満足なので、と、竹村さまにお伝えしました。すると、竹村さまは「やってみましょうか」と、笑顔で答えてくださったのです。 けれど、作ることが決まってからが大変でした。現存しない下図を作ることから始めないといけないので、デザイン起こしからしないといけません。何回かやり取りした業者さんとはイメージが一致せず、結局私自身が下図を描くことになりました。素人ですから、決まりごとはわかりません。職人さんに迷惑をかけるかもしれないけれど、ありきたりのものにはしたくありませんでした。たくさんの人に愛される椿山荘の格を傷つけたくないから、誰が見ても美しいと思えるようなグレードのものを、どうしても作りたかった。初めての着物プロデュースだからといって、自己満足のレベルのものには決してしたくなかった。

私は下絵を持ち歩き、創作着物を作ってくれる工房を探し歩きました。その私をみて、作家であり、日舞名取でもある村岡恵理さんが、ごひいきの江戸友禅の作家である、長竹輝雄さんを紹介くださったのです。

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